初夏の昼下がり。
空にはほんのり薄い雲がかかっているが、晴れている。
談話室にはママさんたちが気分転換なのか、飲み物を買って飲んだり、ご両親と面会したりし、そこそこにぎわっていました。
私は、なんだかソワソワしている。
いつもなら、時間の無駄が大嫌いなので、待ち時間には本を必ず持っていき、読書をすることにしています。
しかし、その日は違っていました。
本を読んでも、頭に入らない。どうしても、気が散る。
その間にも談話室のママさんたちは、入れ替わり立ち替わりしている。
誰かが名前を読んだ。
エレベータが開いた。
そこには重装備のプラスチックケースがありました。プラスチックケースの中には、ゴワゴワの綿でできたタオルで巻き巻きされた、ヌードマウスよろしく、ふやけた赤ちゃんがいました。
「ふんぎゃふんぎゃふんにゃふんにゃ」
本当にこうやって泣くのだと感心しつつも、周囲の声に後押しされ、生まれてから30分後くらいのわが子を抱きました。
わが子は、暖かくてグニャグニャして、つかみどころがないけれども、どことなくしがみついてくるようで。涙が出そうになりました。
写真を撮ってもらおうとしても、わが子は私の腕のほうに顔を隠してしまい、笑われていました。
凡そ3kgのグニャグニャした赤ちゃんは終始泣いていたけれども、初めて自分の染色体の半分が継承された人間を目の前にして、生物としての尊厳やそのシステムの美しさに思いをはせるとともに、何よりも、今まで感じたことのない感情が、芽生えたのでした。
妻にはそっとねぎらいの言葉を。
そして、夫婦は父と母になりました。
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